日本馬は国内で最強の座を得たり、道悪にめっぽう強い馬が登場したりすると、凱旋門賞行きがメディアなどを騒がせることとなる。では、日本馬がはるばるフランスまで遠征する意味とは?
まず、競走馬が海外に遠征する意味から考えていきたい。
日本の馬が海外に遠征する理由としては以下の理由が考えられる。
- 高額賞金レースを狙うため
- 繁殖価値を高めるため
- 適性の高いレース・勝ちやすいレースを狙うため
まず、1,2は海外に挑戦するという意味合いが強い。1では、例えば近年高額賞金レースが続々と新設されている中東方面や、豪州遠征などが当てはまるだろう(レベルという意味ではイマイチなものも多く、今や、日本馬にとって中東などは3にも該当する狩場と言えなくもないが)。2では、日本の芝馬場とヨーロッパの芝馬場が全く異なり、アメリカの芝路線のレベルが差して高くないことから、芝では豪州・香港遠征、ダートでのアメリカ遠征などが挙げられる。
一方で、3は近年、矢作厩舎などによく見られるパターンで、馬の適性を考慮して遠征が行われる。また、コリアカップやシンガポールへの遠征(コスモバルクなど)がこれに当てはまる。
これを踏まえて考えていきたい。凱旋門賞制覇こそ世界一の証と言われることが多い(近年は流石に減ってきたが)。果たして凱旋門賞は世界一のレースなんだろうか。
まず、3という意味で世界一でないことは明らかである。日本の芝とヨーロッパの芝は全く異なる。レベルもヨーロッパの一流馬と比較すると日本馬は一枚劣る。
では、1や2という意味ではどうか。確かに凱旋門賞は当該距離コラムにおいて世界でも有数の賞金総額を誇る。ただ、ジャパンカップも同様の賞金レベルであり、遠征費用やこれまでに一度も買っていないという事実から、賞金目的での海外遠征はお勧めできない。
2という意味ではこれは各所で言われているように、まず、日本での繁殖価値という意味では、フランスの馬場での成功が日本での繁殖としての成功、価値向上にはつながらない。では、欧州(もしくは米国や豪州など)で種牡馬入りする場合はどうか。L(Long,2101m-2700m)やE(Extended,2701m~)といったカテゴリーでの活躍馬が種牡馬として活躍することは無くなっている。仕上がりの早く、マイル前後に良績のある馬が成功している。現に2022年の英愛リーディングは下表の通りである。この上位5頭のうち、現役時に2400m以上のレースを勝ったことのある馬はSea the Starsただの一頭だけである。種牡馬総合でこうなるのだから、ファーストマンサイアーでは当然、この傾向は顕著だ。これらに象徴されるように、(是非はさておき)近年の競馬界では世界的に短距離偏重シフトが進んでいる。
順位 | 種牡馬名 | 最長距離G1勝利 |
1位 | Frankel | 2080m(I) |
2位 | Dubawi | 1600m(8f)(M) |
3位 | Sea the Stars | 2410m(L) |
4位 | Lope de Vega | 2100m(I) |
5位 | Dark Angel | 1200m(6f8y)(S) |
よって、欧州での種牡馬入りにおいて凱旋門賞での優勝が結びつくかといえば大いなる疑問だ。
以上、総合的に判断して凱旋門賞への挑戦は日本馬にとってあまり利するところがないように思われる。畢竟、競馬の原点とは馬主の名誉稼ぎといった側面もある。その意味で、”日本馬で初めて凱旋門賞を制する”名誉は大きい。そういった意味もあって、昨年の岡田氏のコラム内での言葉(下記)によってもこれらのことは裏付けれているといえよう。
最後に、個人的な思いを明かせば、タイトルホルダーではなくとも日本の4頭のいずれかが勝って、日本馬の凱旋門賞挑戦の歴史に終わりが来ればいいとも思っています。欧州と日本の競馬は本質的に別物。日本競馬が目指すべき競馬はスピード色の強いアメリカ競馬でしょう。凱旋門賞を日本馬が制した後は「アメリカ制圧に行こうよ」と言いたいですね。
昨日のコラムでも書いたように、近年の凱旋門賞はその多くが日本人だ。凱旋門賞の斜陽路線化が一段と進んだいつの日にか、強い馬は日本場だけとなり、あっさりと勝てる日が来るのだろうと思っている。